2022年7月29日

新しい街の美容院に行った。ホットペッパービューティーで適当に予約してしまったのが失敗で、店構えがAZUL BY MOUSSYにそっくりだった。“陽”を体現した店員さんが10人くらいはいて、常に低音がズンズン響き渡っていた。“陰”を体現したオタクは明らかに浮いていて居心地が悪く、「はい」「これで大丈夫です」くらいしか言葉を発せなかった。

 

今までは、埼玉の片田舎にあるオーナーひとりの美容院に行っていた。オーナーは子持ちの男性で、その空間には客が私ひとりしかいないため、心がそわそわすることもなく落ち着いて過ごしていた。「いつも通りの感じで…」と言うと、いつも通りの感じの髪型になれた。小さな町だったのであっという間に職場が割れてしまったのが玉にきずだったが、手入れが楽でよかった。

 

特に注文も無かったので実際に髪を切られている時間は10分も無かった。「巻きます?」と言われ、これにもまた大人しく従っていると、アイロンを手にした美容師さんが首を傾げ始めた。「普段から巻いてます?」と訊かれたので「巻いてもすぐ取れるんですよ」と伝えると、美容師さんは合点がいったようにすらすらと話し始めた。どうやら私の髪はタンパク質が少なく、巻いたりパーマをあてたりしてもすぐ取れるらしい。どうりで高校生の頃かけたパーマがあっという間に取れたわけだ。「こればっかりは生まれつきなのでどうにもならないんですよ」と言う美容師さんの声に、きれいなパーマを当てた未来の私の想像図は綺麗に捨てることにした。諦めてぼんやりしていると、「トリートメントつけますね~」という声とともに、車の芳香剤のような何とも言えない匂いが髪を包み込んだ。これが“陽”の匂いとでも言うんだろうか。だとしたら私は、嗅覚からして“陰”のオタクなのかもしれない。

 

灼熱地獄の中スーパーで豚挽き肉を買って帰り、家に着いた頃にはせっかく巻いてもらったくびれカールが跡形もなくまっすぐになっていた。あとに残ったのは、あの“陽”の匂いだけだった。